今回の記事は、離婚協議のときの財産分与の具体的な計算方法について、事例を交えながら詳しく説明します。
まずはお互いの主張を整理する
財産分与の対象となる財産が確定できたら、夫婦双方の主張を整理します。
(財産分与の対象となる財産の確定の仕方や、離婚協議のときの財産分与の基本的な考え方は、こちらをお読みください)
そのとき、夫婦双方の主張を表にしてまとめると、離婚協議が進みやすくなるでしょう。
主張は次のような項目についてまとめます。
・夫婦それぞれの特有の財産はどれか、夫婦の共有財産はどれか
・対象となる財産の形成について、夫婦それぞれがどれくらい貢献(寄与)したか
対象となる不動産の価格を評価する
不動産の財産分与で重要なのは、不動産をいくらであると評価して分け合うのかということです。
評価の額については、夫婦ふたりの協議で任意に決めることができます。
たとえ客観的にみて2000万円の評価額であったとしても、夫婦が1000万円でよいと考えれば、その額で合意することができます。
ただ、現実的には、客観的な評価額を知りたがる方が大半ですので、いくつかの評価方法をご紹介します。
(1)路線価で決める
路線価は、国税庁が公表している、相続税などの課税基準額を計算するための土地についての評価額です。道路に面している土地に対して示されている1平方メートルあたりの路線価を土地の面積に掛け算すれば、その土地の評価が割り出せます。
ただし、この評価額は、課税基準額を割り出すためのものなので、市場の価格とは必ずしも連動しません。実際の市場価格の7割程度と言われていますので、路線価÷70%という計算式で市場価格を推定するという方法もあります。
(2)固定資産税評価額で決める
固定資産税評価額は、地方税である固定資産税を決めるために作られた土地の評価です。この額は、毎年送られてくる固定資産税評価額の通知書を見れば知ることができます。
家屋の価格については、この固定資産税評価額で推定することが多いです。
(3)国土交通省の地価公示価格で決める
地価公示価格は、国土交通省が公表している土地の評価で、ある地点を標準地点としてその土地の価格を公示することによって周囲の土地の価格を推定できるようにしたものです。
最も市場価格に近い評価方法と言われていますが、自分の土地が標準地でない場合は、結局は推定になってしまい、本当の評価額を知ることはできません。
(5)不動産鑑定士に鑑定してもらう
最も正確な方法です。しかし、相当の費用がかかります。
実際、不動産鑑定士に依頼するほど正確な評価額が求められるケースは、協議や調停がこじれて激しい争いをしている場合であって、審判や判決など裁判上の離婚以外にはないと言えるでしょう。
一般的な解決方法である離婚協議では、(1)〜(3)のどれか単独か、3つとも算出して平均値を取るとか、そういった方法が取られることが多いでしょう。
また、一般の不動産会社の無料査定を利用する方法も考えられます。
次に、債務(借金)がどれくらいあるのか計算する
債務(借金)がある場合で、それが不動産や預貯金やその他金融資産などのすべてのプラスの財産となる金額のほうが債務よりも多い場合にのみ、残ったプラスの財産の半分を請求することができるというのが、財産分与の専門家たちの実務上の基本的な考え方です。
よって、借金のほうがプラスの財産よりも多い場合、財産分与をすることはできません。
たとえば、婚姻後に買ったマンションの住宅ローンの残額が1000万円である場合、マンションの評価が2000万円であるとすると、2000万円−1000万円=1000万円が財産分与の対象となり、寄与度を考慮しなければ、2分の1ルールによって500万円ずつを夫婦で分け合うことになります。
しかし、住宅ローンの残額が3000万円である場合、2000万円−3000万円=▲1000万円となり、財産がマイナスとなってしまうので、財産分与ということ自体ができなくなります。
ちなみに、マイナスの財産をどう分け合って負担するのかは、離婚協議や調停の場で、さらに協議しなければならないでしょう。
具体的には、マンションを売ってしまって、残りのローンを2分の1で負担し合うのか、それとも一方が引き続き居住してローンを負担し、その他の財産でローンを負担する者の負担を調整するのか、あるいはそういうことは考慮しないのか、ということは引き続き居住する人が収入のある夫であるのか専業主婦の妻であるのか、子供の有無、経済力の違いなどの事情を総合的に考えたケース・バイ・ケースを踏まえた話し合いになるでしょう。
では、ついでに、妻が離婚後も夫名義のマンションに引き続き住むことにした場合、どういった問題が生じるのかを見ていきましょう。
マンションが夫の婚姻前からの特有の財産であったとすると、離婚した妻が引き続き住み続けるためには、夫からマンションを贈与してもらうか(離婚協議とは別途、贈与契約を結ぶ必要)、夫から無償で貸してもらうか(別途、使用貸借契約を結ぶ必要)、夫から有償で貸してもらうか(別途、賃貸借契約を結ぶ必要)、夫からマンションを買うか(別途、売買契約を結ぶ)しなければなりません。
たとえば有償で借りて住む場合、賃貸借契約の中で、賃料をいくらにするのか、支払い時期や方法をどうするかといったことを合意して明らかにする必要があります。
ただし、このときのリスクとしては、住宅ローンの引落し口座をローンの債務者である夫名義にしている場合が通常ですので、妻が夫と結んだ賃貸借契約どおりに夫に対してきちんと賃料を毎月支払っていても、夫がそれをローンの支払いに向けず自分の懐に収めてしまっている場合があげられます。
そうすると、ローンの支払いの不履行となり、マンションの抵当権の設定を受けている抵当権者(通常はローンを貸し出している銀行)が、貸し出したローンの残債を満足させるために抵当権を実行してしまって(要するに銀行が強制的にマンションを売り払ってお金に変えて、それをローンの支払いに替える、ということをする)、妻は住む家を失ってしまうことになってしまいます。
このリスクを抑える対策としては、ローンの債務者を夫から妻に変更するということが考えられます。
そうすると、妻は賃料を夫に払うのではなく、金融機関に直接支払うことになるので、夫の怠慢によって不払いを起こすというリスクを消すことはできます。
ただこのとき注意すべきなのは、妻は、銀行の承諾を得られなければならないということです。そして、妻の収入が少ない場合または専業主婦である場合、銀行がこの承諾をすることは現実的には考えられません。
これが夫が単独の債務者である場合だけでなく、夫と妻が連帯債務者であったとしても同じです。離婚協議において、夫婦ともに連帯債務者であったものを、夫が外れて妻だけが住宅ローンの支払いをするという合意をしても、ローンの債権者である金融機関の承諾がなければ、その合意は効力を生じません。
ことは住居の問題なので、法的問題に注意しながら協議を進める必要があるため、素人判断はせずに専門家の意見を求めたほうがいいでしょう。
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