離婚のときに相手と話し合って決める条件として、養育費・慰謝料・財産分与といったお金の問題と、親権・子どもとの面会交流といったその他の問題があります。
今回はそのうちのお金の問題である、養育費・慰謝料・財産分与をどう確保すればよいかについて解説します。
離婚協議によって離婚した場合に、せっかくお金の問題である離婚条件を決めても、その支払いが確実になされなければ意味がありません。
現実的に、養育費や慰謝料は長期に渡って分割して支払われることが多いし、財産分与も場合によっては長期の分割によって支払われることもよくあります。
そうした場合、最初こそきちんと支払ってくれていても、何年か経てば支払われなくなることが多いのです。
たとえば、養育費についていうと、8割以上が支払いを開始してから2年以内に不払いを起こし、そのまま支払われなくなるというデータもあるくらいです。
そのような養育費・慰謝料・財産分与の不払いを起こされないようにするためにはどうすればいいか、つまり支払いを確保するにはどうすればいいかを見ていきましょう。
養育費・慰謝料・財産分与の不払いがあれば、強制執行による財産の差押えをすることができる
養育費・慰謝料・財産分与の不払いは相手当事者による金銭の債務の不履行なので、ある条件が整えば、支払い義務がある夫(または妻)の財産を差押えることができるようになります。
ではその条件とは何なのでしょうか。
(1)離婚協議書に、養育費・慰謝料・財産分与の項目それぞれに、金額、支払い方法、支払時期が明記されていること
まず、離婚の話し合いによって、何について合意したのか、そしてその内容が何だったのかということが、書面にはっきりと書かれていなければなりません。
そうでなければ、離婚の際に養育費・慰謝料・財産分与についての約束をしたという証拠が残らないからです。
また、「何について」という部分が養育費・慰謝料・財産分与のことであり、その内容というのは、金額や支払い方法と時期のことです。
これらがはっきりしていなければ、そもそも相手が約束を破ったかどうかすらわかりません。
これから離婚をしようとする方は、離婚協議書をきちんと作成することを忘れないようにしてください。
離婚協議書を作らずに、すでに離婚してしまった方は、離婚相手と、離婚協議書を作りたいということを相談しましょう。
(2)相手が離婚協議書に書かれている約束を破った=お金の不払いを起こしたこと
離婚協議書で決めたとおりに相手方が支払いを続けているときは、当然ながら何の問題もありません。
しかし、あるとき支払時期になってもお金が支払われない場合、または決められた金額を支払わない場合は、相手がお金の不払いを起こしたといえます。これを債務不履行といいます。
債務不履行になった場合は、お金を受け取る側は、相手に対して、すぐにお金を支払えという請求をすることができます。
それで支払ってくれれば何の問題もありません。
しかし、支払ってくれない場合は、何らかの方法を考えなければならないことになります。
たとえば、裁判所に対して、相手の預貯金を差押えてほしい、とか、相手の給料を差押えて自分の口座に直接振り込んでほしい、といった申し立てをすることが考えられます。
しかし実は、離婚協議書だけでは裁判所が相手の財産を強制的に差し押さえるということはしてくれません。
一定の手続きに従うことが必要なのです。
(3)訴訟を起こして、相手を裁判に訴える
差押えなどの強制執行は、裁判所が出した債務名義というものがなければすることができません。
債務名義とは、たとえば「被告は、原告に対し、金100万円を支払え」といった判決文のことを言います。
つまり、債務名義をもらうということは、原則的に、訴訟を起こして、法廷で争って勝つということに他なりません。
そして、この債務名義という判決文に執行文というものを付けてもらい、差押えをしたい財産のある地域を管轄する裁判所に持っていって、相手の財産の差押えをするよう申し立てをするという手続きを踏まなければなりません。
しかし、たとえば月3万円程度の養育費をもらうために、数十万から数百万円する弁護士費用を払って相手を訴えようと思う人がどれだけいるでしょうか?
養育費・慰謝料・財産分与の不払いに対する対抗策としては、あまりに費用がかかりすぎ、現実的ではありません。
そこで、訴訟を起こして債務名義をもらうという手続きを省略する方法があるのです。
(4)離婚協議書を公正証書として作成する
これは、現実的には離婚協議書を作るときにしかできない方法であり、お金の不払いを起こしたときに備えておくためにおこなうものです。
(理論上はあとからでもできるが、離婚問題が決着したと思っている相手が自分にとってさらに不利な書面を再び作ることに協力的になるとは考えにくい)
つまり具体的には、完成した離婚協議書または離婚協議書に盛り込みたい条件を公証役場へ持っていき、公証人に対して「強制執行受諾文言を付けてください」と言えばOKです。
強制執行受諾文言とは、養育費・慰謝料・財産分与の支払いの義務を負っている方(債務者)が不払いを起こした場合、訴訟を経ることなくすぐに強制執行を受けることを債務者が受け入れますよ、という文言のことです。
なぜなら、この文言を付けた公正証書としての離婚協議書は、強制執行をする力のある債務名義として認められるからです。
つまり、簡単に言うと、上で見てきた(3)の面倒くさい手続きがそのまま省略されることになるのです。
離婚協議書を公正証書にしておくと、それを強制執行による差押えをしてほしい裁判所に持っていくと、相手の財産を差押えることができるようになります。
(5)相手の財産を特定する
しかし、公正証書にしたからといって、それだけで相手の財産を差押えることはできません。
相手の財産がどこにあるのかを、お金を支払ってほしい側が把握しておく必要があります。
強制執行をおこなう裁判所は、相手の財産がどこにあるのか知りません。
それがどこにあるのかを裁判所に対して示してやらなければ、差押えのしようがないのです。
たとえば、預貯金のあるところが〇〇銀行△△支店です、とか、給料を支払っている勤務先が〇〇株式会社△△支社です、というように、支店名レベルと名義人まで指定してやる必要があります。
口座番号レベルまで知っている必要はありません。通常は、支店名と名義人だけで十分特定できるからです。
ちなみに、裁判所に対して、財産がどこにあるのか調べてほしいと求めることはできません。裁判所は中立の立場だし、調査の能力も乏しいからです。事件の数が多すぎて対応できないという理由もあるかもしれません。
ともかく、支払ってほしい側が、財産がどこにあるのか調べて示さなければなりません。
では、調べてもわからない場合はどうすればいいのでしょうか。
預貯金口座について
それは、預貯金口座がどこにあるのかを知りたいのであれば、相手が住んでいる場所などから、その周辺にある金融機関すべてに差押え通知を発送するよう裁判所に申し立てることです。その際の費用は、裁判所に対するわずかな申し立て費用と郵送料しかかかりませんので、100件の通知を送ったところで、大した金額にはなりません。
相手の勤務先について
ただ、相手の給料を差押えたい場合で、相手の転職などによって給料を支給している会社がわからない場合は少し厄介です。相手が素直に教えてくれない場合は、探偵を雇うなどして調査する方法も考えられます。
養育費・慰謝料・財産分与の支払いを確保する方法のまとめ
・とにかく養育費・慰謝料・財産分与の項目別に、金額、支払い方法、支払時期を明らかにして離婚協議書をつくること
・離婚協議書は、できれば公正証書にすること。ついでに強制執行受諾文言付にすること。それによって、裁判所に対して訴訟を提起するという時間と、弁護士を雇うというコストを省くことができる。
・相手の不払いに備えて、できれば日頃から相手の預貯金口座(支店名まででOK)や勤務先を把握しておくこと。
コメント