想定事例
結婚後、子どもが二人できた。
その後、妻がエホバの証人の信者となった。
そのことが原因で妻と夫の間と、妻と夫の父の間で争いが続くようになり、妻は子どもを夫のもとに残して別居を始めた。
別居期間は2年未満。
夫は妻に対して、宗教活動を理由に「婚姻を継続し難い重大な事由がある」(民法770条1項5号)として離婚を請求できるか?
宗教活動だけを離婚の理由にはできない
裁判所は何と言っているか
夫婦関係おいて「婚姻を継続し難い重大な事由がある」といえるかどうかは、婚姻関係が実質的に破綻しているかどうかを具体的に検討することによって決められます。
破綻していると見られれば、離婚が認められます。
この事例と同様の事案で、東京地方裁判所の判例(平成5年9月17日判決)があります。
夫婦それぞれには当然に信仰の自由があり、夫婦間においてもそれを互いに「尊重されるべきはもちろん」であるが、「夫婦として共同生活を営む以上、おのずから限度があり、互いに協力して円満な夫婦関係・家庭生活を築くため、相手方の意思や立場も十分に尊重しなければならない」ということを前提として、妻の宗教活動が、夫の心情や夫の営む事業への配慮がなかったとして、宗教を嫌う夫の心情への理解を示しています。
しかし、妻の宗教活動は、夫婦関係や家庭生活に障害となるほどのものではなかったとしていて、夫や夫の父が、もう少し妻の信仰に対して寛容な気持ちを持って、冷静に話し合うべきだったとしています。
そして、別居期間が2年に満たず、妻が夫との夫婦共同生活の継続を望んでいること、幼い子どもに対して夫婦ともに愛情があるということを考慮して、今一度冷静に話し合う余地があるとして、妻と夫の「婚姻関係は、未だ完全に破綻するには至っておらず、やり直しができる可能性がある」として、離婚を認めませんでした。
別居期間の長さがどう影響するか
別の判例では、3年の別居期間で婚姻関係が実質的に破綻していると認めた判例がありますし、逆に、10年近い別居期間を経ても婚姻関係が破綻しているとは言えないとした判例もあります。
つまり、裁判所は、別居期間の長さだけ婚姻関係が破綻しているかどうかは決められず、幼い子供がいるかどうか、夫婦のどちらに責任があるか、どちらか一方に夫婦関係を続ける意思があるかどうか、夫婦関係の回復の可能性があるかどうか、などを総合的に考慮して判断するというわけです。
ですので、別居期間が長ければ離婚が必ず認められるというものでもありません。
また、結婚した後、配偶者が宗教活動を始めたからという理由だけで、離婚が認められるというものでもありません。
まとめ
実質的に婚姻が破綻しているかどうかという判断は、夫婦生活がどうであったかという内容を見て、総合的な要素を考慮して判断されるので、特定の理由があるというだけで離婚請求が認められることは、判例を見る限り、可能性は低いといえます。
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