そもそも、なぜ慰謝料が生じるのか?なぜお金を払わなければならない?
慰謝料とは、不法行為に基づく損害賠償金のことをいいます。
不法行為に基づく損害賠償金とは、故意(ワザと)または過失(不注意)によって他人の権利または法律上保護されるべき利益を侵害した者が、その行為(不法行為)によって生じた損害を賠償する責任を負うときに支払われる金銭のことです。
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
たとえば、ワザと、または、ワザとではなくても不注意で人の物を壊してしまったりした場合は、相手に対して、その所有物についての損害を補填しなければなりません。
そのときの元通りにするための修理代金や購入代金の支払い義務のことを損害賠償というのです。
このような、相手に対する故意または過失による侵害の行為を不法行為といい、不法行為によって生じた損害を補填することを損害賠償というのです。
そして、不法行為による損害賠償は、人の財産の侵害に限りません。
人の身体、自由、名誉を侵害した場合に不法行為に当たり、損害賠償の責任を追わなければなりません。
(財産以外の損害の賠償)
第710条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
民法710条の解釈から、こうした不法行為をした者は、「財産以外の損害」つまり人の身体、自由、名誉を侵害するという不法行為をしたことによって生じた精神的苦痛に対する補填もしなければならないことになります。
こうした精神的苦痛に対する補填が、慰謝料と呼ばれています。
近代国家における法というものは、およそ復讐というものを禁じていますので、人の物を壊したからといって加害者の物を壊すということはできませんし、人の心が傷ついたからといって加害者の心を傷つけることはできません。
そんなことを許せば、社会の秩序が無茶苦茶になるからです。
そこで、慰謝料(損害賠償)という考え方によって、被害者の財産権や心身の損害を金銭的価値に置き換えて、被害者の保護に変え、同時に、金銭という経済的負担を加害者に負わせることによって、いくらかでも加害者に被害者の精神的苦痛を負わせているのです。
したがって、加害者に経済的苦痛を加害者が被害者に対していくらの金額を払えば、被害者の精神的苦痛が癒やされるのかという観点から、慰謝料の金額が判断されます。
つまり、たとえば、人を殴ったからいくら、とか、不倫をされた妻の精神的苦痛がいくら、というように一律に一定額を定めることができないという性質があります。
慰謝料の額は個別的に判断されますが、考慮される要素としては、被害者が受けた損害の内容、損害の程度、年齢、職業、収入、家族関係、不法行為の内容、行為の回数などがあります。
実際には、協議や示談の中で被害者が金額を主張し、当事者以外の人から見て、たとえ不相当に高い金額であっても、加害者がそれを認めて受け入れれば、被害者の主張する金額で決まります。
もし加害者が、被害者にも落ち度があったとして反論し、被害者がそれを認めれば、被害者の主張する金額よりも低い金額で落ち着いていきます。
金額で妥協できなければ、裁判所で決着をつけることになります。
離婚の場合の慰謝料はどうか
離婚の場合にも、いままで見てきたような民法709条と710条の損害賠償の考え方が当てはまります。
たとえば、夫または妻が不倫をしたりドメスティック・バイオレンスをしたりして不法行為をした場合、それをした者に対して慰謝料を請求することができます。
一般にはそのような慰謝料が離婚慰謝料と呼ばれています。
「離婚慰謝料」「不貞行為に基づく慰謝料」「暴力行為に基づく慰謝料」「慰謝料的財産分与」はどう違うのですか?
不貞行為に基づく慰謝料・暴力行為に基づく慰謝料と、離婚慰謝料は厳密には異なります。
一方、慰謝料と慰謝料的財産分与は同じ意味です。
不貞行為に基づく慰謝料は、不貞行為そのものによって精神的苦痛を受けたという慰謝料です。
暴力行為に基づく慰謝料は、暴力行為を受けたことによって精神的苦痛を受けたという慰謝料です。
これらは、婚姻中に不法行為を受けたことによる慰謝料であって、離婚すること自体による慰謝料つまり離婚慰謝料とは区別されます。
この違いは、財産分与をするときとの関係で問題になります。
財産分与をしたときの意味が慰謝料込みの意味合いである慰謝料的財産分与である場合は、離婚慰謝料と同じ意味になります。
したがって、その場合、財産分与と別途で慰謝料を請求することができません。
逆に、財産分与に慰謝料的意味合いがなければ、別途で慰謝料を請求することができます。
一方、財産分与との関係で財産分与に慰謝料的な意味合いがあってもなくても、不貞行為に基づく慰謝料と暴力行為に基づく慰謝料は別途で請求することができます。
なぜなら、離婚すること自体による慰謝料と不貞行為や暴力行為に基づく慰謝料とは別だからです。
不法行為の原因となる行為にはどんなものがあるか
慰謝料が生じる原因となる不法行為の典型としては、不倫(不貞行為)やドメスティック・バイオレンス(DV)の他に、生活費を入れないとか、家出をしたりとか、音信不通になるとか、いったことがあります。
ただし、性格の不一致や、次第に意思疎通がないようになって長期間にわたって別居したりすることは、不法行為には当たらないので、どちらの責任とは言えず、慰謝料は生じません。
夫婦関係の破綻の原因がどちらにあるのかということは、現実的にはとても難しい判断になります。
実際には、具体的な金額は、離婚協議の中で、離婚の原因となる行為をされた側(たとえば不倫をした夫の妻)が金額を主張し、それに離婚原因を作った側が受け入れるかどうかによります。
受け入れなければ、粘り強く協議を続けるか、離婚調停に進むかという選択をすることになります。
まとめ
・慰謝料と離婚慰謝料はほぼ同じ意味。どちらも民法上の不法行為に対する損害賠償のこと
・ただし、財産分与との関係で財産分与に慰謝料的な意味合いがあれば、別途で離婚慰謝料を請求することはできない。
・財産分与との関係で財産分与に慰謝料的な意味合いがあってもなくても、不貞行為に基づく慰謝料と暴力行為に基づく慰謝料は別途で請求することができる
・離婚の慰謝料の場合は、離婚原因を作った方が、相手に対して慰謝料を支払う
・離婚原因とは、おおむね民法770条1項の各号に当てはまる行為を言う
(裁判上の離婚)
民法第770条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
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