想定事例
夫と妻の間に二人の子どもがいる。
妻は国の指定の難病を患っており、歩行困難や言語障害がある。
妻への愛情が薄れた夫は、妻と離婚したいが、このような場合、民法770条1項5号「婚姻を継続し難い重大な事由がある」として離婚が認められるか?
実質的に婚姻が破綻している状態であれば離婚できる可能性がある
事例のような場合、妻が難病を患っていることが「婚姻を継続し難い重大な事由」といえるかどうかが問題となります。
裁判所のこれまでの判例によれば、およそ夫婦の婚姻関係が実質的に破綻している状態であると言えれば、離婚の原因として離婚が認められるのが原則です。
そして、実質的に婚姻が破綻している状態にあるかどうかは、個別的・具体的に検討されることになります。
裁判所は何と言っているか?
事例のような場合、名古屋高等裁判所の判例(平成3年5月30日判決)は、妻は「日常生活さえ支障をきたす状態にある」ものの「知的障害は認められないから」「精神的交流は可能」であって、「日常生活の役に立たなくなったからという理由だけで婚姻が回復しがたいほど破綻していると認めることはできない」としています。
この判例の事案では、夫の妻に対する態度は、入院費も負担せず見舞いにも行かないという非常に冷淡なものであり、難病になったことも妻に落ち度があるわけではなく、夫の態度によってもたらされた夫婦の状況であるから、そのことのみをもって婚姻が破綻しているとは言えないとしているのです。
言い換えれば、仮に、夫が妻に対して献身的に看病をしながら、夫婦としての関係が冷え切ってしまったのであれば、実質的に婚姻が破綻している状態にあると認められる可能性があります。
そうした場合は、配偶者が難病を患っていることが「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるとして、離婚が認められる場合があるかもしれません。
妻に落ち度がなく、夫が関係を維持する努力もしないままで、妻を邪険にしたり、冷淡な態度をとっているにも関わらず離婚を認めるというのでは、妻にとってあまりに酷だという価値判断が働いているのだと考えられます。
知的障害がある場合はどうか?
一方、仮に、難病だけでなく、知的障害も持っているのであれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」ではなく、770条1項4号「強度の精神病」として離婚が認められる可能性がありえます。
まとめ
・実質的に婚姻が破綻しているかどうかは具体的に検討される
・夫が態度を改めれば夫婦関係が回復する可能性がある場合は離婚が認められない場合がある
・配偶者が難病を患ったという理由だけで離婚できる可能性は低い。一生懸命に看護するなどして夫婦関係を維持する努力が必要
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